昨年末に買っておいた「鍼師おしゃあ 幕末海軍史逸聞」河治和香著を読みました(“おしゃあ”とは主人公のおんな鍼師の名前です)。今まで時代小説はあまり読んでいなかったので、新鮮な感覚で読むことができました。古典落語の人情ものの長編を聴いているような感じがして、江戸時代末期から明治時代の町人の生活が、勢いよく楽しそうに描かれています。特におしゃあの江戸っ子気質からくるきっぷの良さは読んでいてスカッとします。内容も実在の人物が数多く登場して、史実どうりに物語が展開して、江戸の風俗なども細かく取り込まれています。まとめれば腕は一流のおしゃあの元には幕末の傑物の成島柳北や安田善次郎なども通っていた。その中には瀬戸内の漁師でのちに海軍に勤めることになる古川正八もいた。男嫌いの江戸っ子鍼師おしゃあの恋の行方を描いた幕末明治一代記、と言ったところでしょうか。成島柳北は顔が異常に長い人物として登場しますが、実際の写真を見ると異常に長いです(ぜひネットで確認してみてください)。ちなみに森繁久彌さんは子孫だそうです。安田善次郎は安田銀行(現在みずほ銀行の一角)の設立者ですが、1921年に江ノ電を買収した東京電燈株式会社にも参画していたり、鶴見線の安善駅は安田善次郎からとっているそうです。今まで読んだ小説の中で、10代から亡くなるまでの一人の人生を描いた一代記ものはほとんどないので、シリーズものになっても面白そうだなと思って読んでいたのですが、ちょっと残念な感じがします。スパッと潔く終わるのはこれも江戸っ子のきっぷの良さを表しているのかもしれません。鍼灸治療の場面も多く登場しますが特にわからなくても問題ありません、あまり時代小説を読んだことのない方におすすめです。