「戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか」クリストファー・ブラットマン著を読みました。クリストファー・ブラットマン博士は、シカゴ大学ハリス公共政策大学院の教授で、開発経済センターの副センター長も勤めています。経済学者、政治学者であり、暴力、犯罪、貧困に関する世界的な研究は、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、フィナンシャルタイムズなど多くのメディアに取り上げられています。ちなみに原題は「Why We Fight The Roots of War and Paths to Peace」となっていて、どちらかというと直訳の方が内容を表しているような気がします。
だいたいの内容を要約すると、暴力や戦争については、数十年にわたり、経済学や政治学、心理学で研究され、さらには現実世界での介入の知見が蓄積されてきた。そこから得られた直感に反する洞察の1つが、「人はめったに戦わない」ことであり、戦争はコストがかかりすぎるため、ほとんどの敵対する集団は取引で何らかの妥協をし、非暴力的に互いを憎み合うことを選択する。2つ目の直感に反する洞察は、「戦争の原因は少ない」ということであり、大きすぎるコストも厭わず戦争に突入する原因は5つしかない。敵対する集団同士が平和を望んでいる場合には、驚くほど簡単に暴力は終結し、ギャング同士でさえもそれを行なっていることが示される。より困難な状況下でも、5つの原因に取り組むことで、暴力の動機を減らし、取引に向かう動機を増やせることが、実例とともに明らかにされる。戦争と平和についてリアリズムに基づいた理解を深め、戦争の一挙解決を夢想することの危うさを指摘し、実効ある「平和への道」を考えさせてくれます。
このブログでさまざまな分野のさまざまな本についての紹介をしていますが、たまにその著者が書いた“渾身の一冊“のような本に出会うことがあります。この本はクリストファー・ブラットマン博士にとっての渾身の一冊ではないかと思います。最終章の「結論 漸進的平和工学者」は博士のような慎重で着実な研究を行なってきた方でないと書けない内容です、ぜひ読んでみてください。
最後に印象的だった部分を抜粋します、博士がカール・ポパー(オーストリア出身、イギリスの哲学者)の考え方を紹介した部分です。「私たちは、絶対的に正しい道は見つけられないし、理想の目的地にたどり着くこともできない。だが、ゆっくりと、慎重に、実用主義的な改良を重ねていけば、いつかもっと正確な近似値が得られる」・・・・・・世の中はそもそも複雑で障害物だらけです、過度の単純化や遠大な構想は危険なのかもしれない・・・・・考えてみたいと思います。