「街とその不確かな壁」村上春樹著を読みました。2017年「騎士団長殺し」以来、6年ぶりとなる書き下ろし長編小説であり、同時に電子書籍でも配信されています。発売1週間で16.3万部を売り上げ、5万部の重版がすでに決定されています。先週のブログにも書きましたが、1980年に、中編小説「街と、その不確かな壁」を発表していたが(この作品はどの国でも出版されていない)、中途半端な形で掲載したとの思いがあり、1985年に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」として改作した。しかし歳月が経過して「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」はそのひとつの対応ではあったが、それとは異なる形の対応があってもいいのではないか、と考えるようになり、補完しあうものとして完成させたものだそうです。
ネタバレになってしまうので内容については詳しく書けませんが、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は、別々に存在してそれぞれ進行していた物語が、最後に一つに合わさって収束する物語になっています。今回の「街と不確かな壁」は揺らいでいるというか・・現実と非現実の世界が・・村上春樹さんの言葉を借りるならば、“不断の移行“つまり境目がはっきりしたモノではなく、これぞ“生きている“ということなのでしょうか、どこかにはっきりとした目標やゴールがあるわけではないのですが、途切れずにどこかへ進んでいく(進んでいる)様な物語になっています。
精神世界の物語、再生の物語・・・など、読んだ人それぞれに感じ方は色々あると思いますが、私は一言で言うなら繋がりの物語だと思いました。それは自分と他人や世の中全体での繋がりばかりではなく、自分自身の中で、別々に得た知識(例えば2冊の本で別々に読んだこととか)、別々に感じた感情(例えば成功した体験と失敗した体験)など、何かのきっかけで繋がることはよくある話で、世の中は別々に分かれているようで、どこかで繋がっているのではないか(かなり東洋的な発想だと思いますが)と感じさせてくれる物語です。すでにベストセラーになっているので読んだ方も多いと思いますが、まだ読んでいない方はぜひ・・・・おすすめの一冊です。