掃除婦のための手引き書

2022年10月28日 08:17

「掃除婦のための手引き書・A Manual for Cleaning Women」ルシア・ブラウン・ベルリン著を読みました。ルシア・ベルリンはアメリカで最も守られている秘密の一つと言われている短編小説作家です。1936年アラスカで生まれ、鉱山技師だった父の仕事の関係で幼少期より北米の鉱山町を転々とし、成長期の大半をチリで過ごす。3回の結婚と離婚を経て4人の息子をシングルマザーとして育てながら、高校教師、掃除婦、電話交換手、看護師などをして働く。一方でアルコール依存症に苦しむ。20代から自身の体験に根ざした小説を書き始め、77年に最初の作品集が発表されると、その斬新な「声」により、多くの同時代人作家に衝撃を与える。レイモンド・カーバー、リディア・デイヴィスをはじめ多くの作家に影響を与えながらも、生前は一部にその名を知られるのみであったが、2004年に亡くなった後、11年経った2015年に短編集「掃除婦のための手引き書」が出版されると同書はたちまちベストセラーとなり、多くの読者に「再発見」された。(本の表紙裏にある著者紹介抜粋)
アメリカでは「ニューヨーク・タイムス・ブックレビュー」の2015年の10ベストブックとなり、日本では2020年本屋大賞翻訳小説部門第2位となっています。

半自伝小説と言われているそうなのですが、日常生活を日記のように描いているような感じもあれば、架空の世界の話を描いているようなところもあり、どこか不思議な感じのする小説です。例えばティーンエイジ・パンクという短編ではツルの飛来を見に行くところで『ツルは本当にやって来た。空がブルーグレーに変わるころ、何百羽もの大群がスローモーションで舞い降り、折れそうな足で立った。岸辺で水を浴び、羽づくろいした。ふいに目の前がクレジットの後の映画のように黒と白とグレーになり、激しくもみあった。ツルたちが水を飲んでいる場所の下流は水の流れが砕かれて、無数の細かな銀色の吹き出しになった。やがてツルはカードをシャッフルする音とともに、白の一団となって、あわただしく飛び立っていった。』ツルの息づかいまで感じられるような気もすれば、どこか映画のワンシーンを眺めているような感じもします。その他の作品でもそうなのですが、共通して作者の俯瞰して見ている客観的な描写と、内なる感性からくる個性的な表現が絶妙なバランスで混在しているようなところを感じます。どうやって書いたら伝わるだろうと考えたのですが、なかなか言葉ではどんな感じかは伝わりづらいと思います。短編なので時間の合間に少しづつ読むこともできますので、ぜひ読んでみてください。

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