この本を盗む者は

2022年04月22日 08:14

「この本を盗む者は」(2020年)は神奈川県厚木市出身の作家で、もともとパート書店員であった経歴を持っている、深緑野分さんの空想推理小説(こんなジャンルないかもしれませんが)です。私は今回の作品で初めて深緑さんの作品を読んだのですが、2010年からの活動期間で過去多くの作品を執筆されていて、「オーブランの少女」(2010年)、「戦場のコックたち」(2015年)このミステリーがすごい!2位、本屋大賞7位、154回直木三十五賞候補、「ベルリンは晴れているか」(2018年)このミステリーがすごい!2位、第9回Twitter文学賞国内編1位、160回直木三十五賞候補など数多くの評価の高い作品を世に出されている方です。「戦場のコックたち」は第二次世界大戦後のヨーロッパが舞台、「ベルリンは晴れているか」はナチス・ドイツ敗戦後のベルリンが舞台となっているミステリーだそうなので、かなり直球のミステリーになっていると思われます。がしかし、今回の「この本を盗む者は」は本の中にある(読んでる人の頭の中にある)空想の空間で物語が展開するクセのある話になっています。現実の世界で展開する小説を書いてきた深緑さんが、なぜこの作品を、なぜ空想世界の作品を突然書こうと思ったのか?興味があります。物語は“劇中劇“のような、本の中に登場する本の世界で進行します(やや慣れるまで時間がかかりました)。

書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、深冬は残されたメッセージを目にする。“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる“本の呪いが発動し、街は物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り元に戻らないと知った深冬は、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れてゆく・・・・。

小説の世界に没頭する、入り込む経験は、小説を読んだことのある方であれば誰しも経験したことのあることだと思います。そんな経験を小説にしてみるとこんな感じかもしれないといった作品です。本の帯には本の魔力と魅力を詰め込んだ空想の宝箱とありますが、本の魔力とはあまり今まで考えたことのない発想だなあと感じました。

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