「歴史に残る外交三賢人」は2020年2月国際政治アナリスト伊藤貫さんによって執筆された本です。著者の伊藤さんはコーネル大学で国際政治学と外交史を学び、ワシントンのビジネス・コンサルティング会社に、国際政治・経済アナリストとして勤務。CNN、CBS、BBC等の政治番組で外交・国際関係・金融問題を解説されています。この本の内容紹介を抜粋すると、歴史上、多極構造の世界を安定させるため、諸国はバランス・オブ・パワーの維持に努めてきた。19世紀後半の欧州外交を支配したビスマルク、俊英外相タレーラン、哲人政治家ドゴール。聡明な頭脳とパワーを併せ持った三賢人が実践した「リアリズム外交」は、国際政治学で最も賢明な戦略論であり、日本が冷酷な世界を生き抜く鍵となる・・とあります。この三賢人、一言で言えば“クセがすごい”。賛否両論というか、評価が分かれるというか、見解によっては色々あるというか。ただ国際政治の舞台で大きな影響力があったということは間違いなく、綿密な戦略的思考に基づいて方向を決めていたことは窺えます。この3人の中で一番多くの紙面が割かれているのはビスマルクなのですが、一人の人物としてのビスマルクはかなりの変わり者と見られていたようで、なかなか面白いひとです。かなり喜怒哀楽の激しいひとだったようで、皇帝ヴィルヘルム1世を何度も説得することになるのですが、最後は泣き落としを使ったり(ヴィルヘルム1世とは度々意見が対立し、相性は必ずしもよくなかったようですが、26年にわたってヴィルヘル1世の首相であり続けた)虫歯の治療を怖がり「歯医者はみな卑怯者で、患者を虐めるのだ」と言ってみたりしていたらしいです。190cm123kgという巨漢で、食べ物を手当たり次第に口に詰め込んで酒で流し込むという暴飲暴食のクセがあったり(ビールでもワインでもシャンパンでも水の如く飲んだらしい)、卵が好きで1日に15個食べたり、牡蠣を175個食ったことがあるというのが自慢話の一つだったそうです。そんなわけで病気がちだったようなのですが83歳まで生きて、当時としては長命だったと言います。
伊藤さんはこの本の中で、敗戦後の日本の外交論壇は、護憲左翼・新米保守・国粋保守という3グループに分かれてきた。これら3グループの外交議論の思考パターンは、真の意味でのリアリズム外交(バランス・オブ・パワー)とは無縁のものであったと書いています。ビスマルクは「賢者は歴史から学び愚者は経験からしか学ばない」と言ったそうですが、この3人の戦略的思考とはなんだったのかじっくり考えてみたいと思います。