「思いがけず利他」中島岳志著という本を読みました。著者の中島岳志博士は政治学者、歴史学者であり、南アジア地域研究、日本思想史を専門とされています。利他主義(altruism)とは利己主義(egoism)の対概念としてフランスの社会学者オーギュスト・コントによって造られた造語です。日本に導入された際に、他人を思いやり、自己の功徳によって他者を救済するという意味を持つ仏教用語「利他」が当てられたそうです。利他主義は行動論的には「社会通念に照らして、困っている状況にあると判断される他者を援助する行動で、自分の利益を目的としない行動」と定義されています。本の中で中島博士は「利他」には押し付けがましさやうさん臭さがつきまとい利己主義的な利他行為の危うさがあると指摘しています。そうした意思や利害計算や合理性から離れているところで、私や人々を動かし、良い循環で人と人をつなぐ「利他」について、それは現在になく思いがけず(偶然に)未来に、その瞬間がやってくると論じています。分かりやすい例として、立川談志師匠の「文七元結」が登場しますが、YouTubeで観れますのでぜひ1回観てから読むことをお勧めします。落語好きでなくともわかりやすい例なのではないかと思います。私は3代目古今亭志ん朝バージョンで観ました(吾妻橋での身投げのシーンはこちらもなかなか良いです)。物事には陰陽が必ずあって、それも右左にきっちり分かれているわけではなく、かなり複雑に絡み合っている、思いがけず「利他」があれば思いがけず「利己」となってしまうことがあるかもしれません。中島博士はこうも書いています、利他は自己を越えた力の働きによって動き出す。利他はオートマティカルなもの。利他はやってくるもの。利他は受け手によって起動する。そして、利他の根底には偶然性の問題があるー。仏教的な言い方になってしまいますが、現在、「今」を生きることに精一杯集中していくしかないのだと思います。格差が拡大していたり、行き過ぎた能力至上主義や自己責任論が問題になっている今、きちんと考えていかなければならない事だと感じました。おすすめの一冊です。
ちなみに以前観た「ペイフォワード 可能の王国」2000年ミミ・レダー監督という映画がありましたが、これはキャサリン・ライアン・ハイドさん原作Pay It forwardという小説を映画化されたものです。こちらは1対1の人間関係だけでなく社会全体を捉えた「利他」について考えさせられます。こちらもおすすめの映画です。