新版「動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか」を読みました。著者である福岡伸一博士は青山学院大学教授、ロックフェラー研究所客員教授であると共に、一般向けの科学書の翻訳・執筆を多数されています。この本の注目点は、やはりP260から始まる“「動的平衡」とは何か”の項に尽きると思います。「動的平衡」宣言なるものが、福岡博士の公式ホームページのトップページにもありますが、生命とは何か?に対する答えとして記されています。本の中で、『私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とは全く別物になっている。分子は環境からやってきて、いっとき、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。つまり、環境は常に私たちの身体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と読んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎないからである。』また『可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であることだ。生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。サスティナブルであることを考えるとき、これは多くのことを示唆してくれる。サスティナブルなものは常に動いている。その動きは「流れ」、もしくは環境との大循環の輪の中にある。サスティナブルは流れながらも、環境との間に一定の平衡状態を保っている。』
鍼灸師として東洋医学(日本ではかなり中医学の影響が色濃いと思いますが)を学んだものからすると、この動的平衡の考え方は東洋医学の天下合一思想と近いものがあるのではないかと感じました。天下合一思想とは、人体の形と機能が天地自然に相応しているとみる思想のことで、BC210〜BC150年前頃に書かれた「黄帝内経」の霊枢には人体が自然と同じく統一体をなしている思想を反映しているそうです。生命が循環的でサスティナブルなシステムであることを最初に発見したのは1930年から1940年頃にかけてルドルフ・シェーンハイマーによってだそうですが、紀元前に書かれた書物に同じような思想は反映されていることは何か不思議な・・興味深いものを感じます。
一般向けにわかりやすく書いてありますし、この分野に興味のある方にはおすすめです。