越境する認知科学② 日本認知科学会編「創造性はどこからくるか」阿部慶賀博士著を読みました。
この本は越境する認知科学シリーズ全13巻のうちの1冊であり、旧来の創造性観がとらわれてきた『卓越した才能の持ち主や孤高の天才が、その才能で地道な努力を伴わず突然に発揮するもの』といった固定観念を脱却し、潜在処理、外的資源、身体性から、創造性は誰でも発揮でき、どこにでも遍在しているということを最新の研究から解説してくれます。
例えば、思考や推論のような高次の認知処理を扱う研究では、これまで意識的処理に焦点を当てることが多かったが、近年の創造性や洞察現象を扱う認知科学研究では、無意識の果たす役割に着眼した研究が精力的に進められているとして、創造性的思考の際に行われる無意識処理についてのDijksterhuis & Meursの仮説(2006)が紹介されています。判断材料や問題中に満たすべき制約が少ないシンプルな問題状況の場合には、意識的処理は良い判断を下せるが、判断材料や制約が多数絡み合っているような問題状況下では、意識的処理は対応しきれず良い判断が下しにくくなると予測。むしろ複雑な問題状況下では、意識的処理よりも処理容量が大きく、バイアスにも影響されにくい無意識処理の方が良い判断を下しやすいとも考えられると考えた。このことはあたかも突然アイデアがひらめいているような感覚の実態を解明する糸口として期待されています。
また創造的思考を行う私たちと環境との間に立つ、身体の役割について関連する研究では、空書(何もない空中にに向けての書画動作)に代表される何気ない手や身体各部の動きが、私たちの問題解決に対する態度や姿勢を左右する。私たちが普通“気にもとめない”身体の動きがアイデアの探索と発見をサポートしている点は、創造的思考が、潜在的な処理過程に支えられていることも示唆している。
などなど面白い内容を一般向けに分かりやすく解説してくれますので、おすすめの一冊です。
阿部慶賀博士が言う、私たちの創造性は、傑出した誰かの心のどこかに局在するものではなく、ひろく私たちの心と環境、そしてその間をつなぐ身体に分散し、遍在するものだというメッセージには、もしかしたら・・・自分もまだまだ何か面白いことを想像できるかも・・・・と勇気づけられます。