AI・ビッグデーターの罠

2021年06月04日 08:50

「AI・ビッグデーターの罠」キャシー・オニール著を読みました。キャシー・オニール博士はハーバード大学で数学の博士号を取得。バーナードカレッジ教授を経て、企業に転職し、大手ヘッジファンドで高度な数学的手法で分析・予測を行う金融工学の専門家(クオンツ)として働き、2008年にいわゆるリーマンショックを経験、その後、数学の力で働くアプリケーションがデータ経済を動かす危険性に警鐘を鳴らすため、有害なモデルをこの本の原題にもなっている、数学破壊兵器(Weapons of Math Destruction)と呼び、この誤りを正すために問題点を指摘して、改善を行うための活動を行なっている。

AI・ビッグデーターの暗黒面(ダークサイド)については、うすうす感じていたものの、教育、宣伝、仕事、信用、政治まで数々の具体例をあげて、数学破壊兵器の現状を知れば知るほど、余りの問題の大きさに圧倒されます。中でも一番根が深いと思ったのは、貧しい人ほど、クレジットの状態は悪く、その事実を示すデータが数学破壊兵器の暗黒世界に一度でも流れれば、低所得層向けサブプライムローンや営利大学の略奪型広告に追い回されるようになり、住宅ローンや自動車ローンなど、あらゆる種類の保険で金利が跳ね上がる。するとクレジットの格付けは一層低下して、モデリングによる死のスパイラルから抜け出せなくなる。言うならば「静かな戦争」である。最も攻撃を受けるのは貧困層だが、その攻撃は中間層にも及ぶ。・・・日本もいずれ10%の社会的勝者と90%の敗者で構成されるようになってしまうのでしょうか?

博士はこうも書いています、ビッグデーターは過去を成文化する。ビッグデーターから未来は生まれない。未来を創るには、モラルある想像力が必要であり、そのような力を持つのは人間だけだ。私たちはアルゴリズムに、より良い価値観を明確に組み込み、私たちの倫理的な導きに従うビッグデーターモデルを作り上げなければならない。・・・・そもそも物事の価値をなんでも数値化できるなどと考えることをやめるべき時なのかも知れません。また数値化できないからこそ大切なのかも知れません。博士は具体的な解決策も書かれていますが、ぜひそれについてはこの本を読んでみてください。

ビッグデーター自体に罪はなく、使い方によっては大いに有益であるものなので、この問題については慎重に考えていかなければならないと感じました。

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