年末年始に読もうと思って買っておいた「天才 富永仲基」釈 徹宗著を読み終えました。仲基は江戸中期(1715−1746)大阪・北浜の醤油醸造業・漬物商を営む家に生まれた町人学者です。独自の立場で儒教や仏教を学び、主著「出定後語」では、世界に先駆けて仏教経典を実証的に解説。その成立過程や思想構造を論じ、結果導いた“大乗仏教非仏説”は、それまでの仏教体系を根底から揺さぶることとなります。 江戸時代中期にテキストクリティークの手法を駆使して、仏教・儒教・神道の“加上”(思想や主張は、それに先行して成立していた思想や主張を足がかりにして、さらに先行思想を超克しようとする。その際には、新たな要素が付加される。との主張)の説明を試み、インド(幻術・空想的)・中国(文辞・修辞的)・日本(隠す・神秘)などの文化の特性を加えているところなどは、現代にも通じる比較宗教学や比較文化学の先駆者であると考えられます。こうした天才を生み出した背景には18世紀前半の経済成長が関係しているのではないでしょうか、商品作物の栽培が進み、織物、窯業、問屋制家内工業なども発達して人とモノの流れが活発となり、城下町・港町・宿場町・門前町・鳥居前町などの都市が各地に生まれ、大阪は40万人近い人口を抱えていたようです(江戸は100万人前後に達していて世界最大の都市)。比較的裕福な商家に生まれた三男であれば、学問を行う時間的余裕と経済的余裕があったとも言えるのではないでしょうか。地震や大火事、疫病(新型コロナウイルスなども)の時は応用科学のような実践的科学にイノベーションが起こることが多いようですが、基礎的な学問の研究にはこうした時代の方が適していたとも考えられます。それぞれの時代にそれぞれの天才がいたと思いますが、この富永仲基もその独創性が故に同時代の人には理解されず、内藤湖南などに評価されるまで“知られざる天才”となっていました。31歳で短い生涯を閉じています。おそらくこうした知られざる天才は今までもたくさん居たんだろうな・・・と考えさせられる本でした。