先日のブログ「意識とはなにか」のところで登場しました、「脳と時間」ディーン・ブオノマーノ著を読み終わりました。この本には実感しづらいものの面白いことが書いてありました。脳が意識を生み出している仕組みはわからないが、意識の神経相関といったものを同定しようという試みが進行していて、意識上に知覚される刺激によって生じる電気信号と、同じ刺激が閾下でのみ取り込まれるーすなわち、脳で刺激が検出されるが、意識上に浮かび上がらないーときに生じる電気活動とを比較するというやり方である。これは数多くの研究から刺激が意識に上って知覚されることに対応する神経メカニズムは、刺激が脳で検出されてからけっこうな時間経過の後に初めて姿を現すということが示唆されている。平たくいうと、“脳は、現実という映画フィルムをカットしたりポーズしたりペーストしたりしてから、我々を取り巻く世界で展開してゆく事象群に関する都合の良い記述を、心へと送り込む。ただ、こんな考察をあえてしない限り、我々はただ、自らの意識的体験が瞬間瞬間の現実の実況的解釈になっているという印象を感じ続けるのみなのである。”のだそうです。
著者はこうしたことから我々は、無意識の活動を眺めている、自分ではなにもできない無用な観察者と言っているわけではなく(自由意志についてはまだ色々議論があると書かれています)、意識が、自由意志の気持ちと同じように、ことが起こってからの心的な創造物だとしたところで、意識が意思決定に役割を果たしていないということにはならないと考察しています。さらに進化的に言うなら、主観的体験と自由意識は主として未来志向的な現象なのかも知れない。例えば、自由意志の気持ちがあればこそ、自らの運命は自ら御しているという確信が生まれ、責任をもって、長期的で未来志向的で生存に必要なアクションを取ろうという駆動力が生まれるのかも知れない。最後に著者はこうした長期的で未来志向で生存に必要なアクション(心的時間旅行と呼んでいるそうです)は進化的に言えば獲得して間もない技能であるので磨き続けることが必要であると結んでいます。
なかなか実感しづらい内容をわかりやすく実際の研究結果などを交えながら解説していて、さらに最後はモヤモヤした感じで終わることの多い脳や意識に関しての本では珍しく未来が明るく感じられる本でした。興味のある方はぜひ読んでみてくださいおすすめの一冊です。l