時代の一面

2023年10月26日 13:15

「時代の一面 大戦外交の手記」東郷茂徳著(1952年発行改造社版)を読みました。東郷茂徳氏は日本の外交官であり政治家でもあります。太平洋戦争開戦時(東条内閣)及び終戦時(鈴木内閣)に外務大臣を務めており、欧亜局長や駐ドイツ大使、駐ソ連大使を歴任しています。私は、東郷茂徳氏はこの本を通じて感じられることですが、非常に真面目すぎるほど真面目で粘り強く、柔軟で広い視野を持った平和主義者・和平派であると思います(当時、軍と異なる意見を正面切って言えるのは貴重な存在だったはず)。1941年東條内閣の外相時では日米交渉にあたりましたが、開戦を回避できず、戦後に極東国際軍事裁判では、「真珠湾の騙し討ちの責任者」という疑惑を連合国からかけられてA級戦犯として起訴され、禁錮20年の判決を受けます。1945年鈴木内閣の外相時ではソ連を仲介とした和平工作やポツダム宣言の受諾を推進しましたが、ソ連を仲介者とする和平工作は愚策との厳しい意見もあるようです。

この本は、奇しくも太平洋戦争の開戦時と終戦時という決定的局面で、2度にわたって外務大臣を務めた著者の回想録です。外交官に任官した第一次大戦勃発の頃より第二次大戦終末に至るまで、著者が実際に見聞した事実や、関与した事件・諸問題等について克明に記されています。日本の近代史における第一級の資料であり、実際にその近代史の渦中にいた重要な人物の生涯と思想を知ることができる本です。

前書きには、『本書の目的は予の自傳に非ず、また自分の行動を辯解せんとするものでもなければ日本政府のとった政策を辯解せんとするものでもなくして、自分が見た時代の動きを記述するを旨とし、自己が見聞きし且つ活動せる所に就き、主として文明的考察を行はんとするのである。』とあります。内容を読むとかなり客観的事実のみを記載しようと、慎重に吟味して気を配りながら書かれたのではないかと思われます。特に軍部との関係については、言いたい事が多々あっただろうと推察できますが、あっさりとしすぎている印象で、もっと言いたいことをぶちまけても良かったのでは無いかと感じるくらいです。行間から察すると外交交渉よりも国内での軍部との交渉で神経をすり減らしている空気が感じられます。実際に起こった歴史的事実の渦中にいた方の記録ですのでその辺の空気感までを含めてぜひ読んでみてくださいおすすめです。

一方、外交というのは一筋縄ではいかないのだなあと感じます。お互いの信頼が失われて相互不信に陥って仕舞えば、交渉はうまくいかないのだということでしょう。当時の日米交渉などはこうした相互不信に落ちいっていたのでは無いかと思います。当時、政府の言っていること(考え方)と軍部の言っていること(考え方)が異なっていて、どちらの言っていることも信用できないとなってしまっては、確かに交渉どころではなくなってしまいます。国と国との約束を守る(守らせる)ためにはどうするべきか、国際的な機関は複雑な交渉にどう関わるべきか、どうしたら機能不全に陥らずに済むのか?。今、現代に生きる一人として考えさせられます。

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