「死んだふりで生きのびる 生き物たちの奇妙な戦略」宮竹貴久著を読みました。宮竹博士は琉球大学大学院農学研究科昆虫学専攻修士課程修了、沖縄県庁職員となり、その後九州大学大学院理学研究科・理学博士取得。ロンドン大学生物研究室客員研究員を経て、岡山大学教授となり、日本動物行動学会日高賞などを受賞。主に昆虫を材料とした行動生態学・進化生物学・昆虫生態学・応用昆虫学を研究されています。このブログを読んでいただいている方々は動物が死んだふりをすることは知っていると思うのですが、哺乳類(オポッサムや羊、ブタなど)・鳥類(ニワトリ等)・両生類(カエル等)・魚類(サメ等)・爬虫類(ヘビ等)・甲殻類・ダニ類・昆虫類(トンボ、バッタ、カメムシ、チョウ等)いろいろな動物で「死んだふり」が報告されていまして、「死んだふり」を“する“と“しない“はどう決めているのか?や、同じ種でも「死んだふり」が得意な、長時間「死んだふり」をする種と「死んだふり」が苦手な、短時間しか「死んだふり」をしない種がいることをご存知だったでしょうか?
敵から逃れるために動きを止めて「死んだふり」(死んだフリの定義は定まっていないようですが、この本では、敵の気配を感じて目立たないように体の動きを止めるフリーズ〈不動〉とは区別しています)。でもそれ、意味があるのだろうか?そんな素朴な疑問に著者が答えてくれます(元論文は「Is death-feigning adaptive? Heritable variation in fitness difference of death-feigning behaviour」2004年PROCEEDINGS OF THE ROYAL B-BIOLOGICAL SCIENCESのようです)。「死んだふり」をすれば本当に生き残りやすいのだろうか?どのくらい死んだふりをしていれば助かる確率は上がるのか?など面白い話が満載です。
この本の中でも注目なのは、宮竹博士が「死んだふり」の研究を続けていた中で、死んだふりの時間が長いロング型昆虫と、時間が短いショート型昆虫でゲノム解析を行った結果、ドーパミン関連遺伝子の発現が著しく異なっていて、ロング型は曲がる動作がショート型に比較して少なく、動きがゆっくりしていて、ドーパミンが欠乏している事がわかったとの事。今後、パーキンソン病のメカニズムの解明や治療に役立つ日が来るかもしれないそうです。昆虫の「死んだふり」の研究がパーキンソン病に突き当たる・・・一見すると関係ないようなことが繋がっている・・これぞ基礎研究の醍醐味!のような話も載っています。ぜひ読んでみてくださいおすすめです。