ネガティブ・ケイパビリティ

2022年12月09日 08:51

「ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)答えのない事態に耐える力」帚木蓬生著を読みました。著者の帚木蓬生さんは精神科の開業医として活動しながら、執筆活動を続けている小説家でもある方です。小説としては「12年目の映像」や「閉鎖病棟」を読んだことがあります。今回の本はネガティブ・ケイパビリティ、直訳すれば負の能力もしくは除外する能力といったところだと思いますが、「性急に証明や理由を求めずに、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」を意味します。著者は精神科の医師としての経験や英国の詩人キーツ、紫式部やシェイクスピアなどの作品から詳しくこのネイティブ・ケイパビリティについて解説してくれます。

本文より一部改編・抜粋『目の前に、訳の分からないもの、不思議なもの、嫌なものが放置されていると、脳は落ち着かず、および腰になります。そうした困難状態を回避しようとして、脳は当面している事象に、とりあえず意味づけをし、何とか「分かろう」とします。ヒトの脳にはそう言う方向性が備わっているからです。ところがここには大きな落とし穴があり「分かった」つもりの理解が、ごく低い次元にとどまってしまい、より高い次元まで発展しない、まして理解が誤っていれば深刻な悲劇になります。ー[中略]ーなるほど私たちにとって、わけのわからないことや、手の下しようがない状況は、不快です。早々に回答を捻り出すか、幕を下ろしたくなります。しかし私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、とりつくすべもない事柄に満ちています。むしろそのほうが、分かりやすかったり処理しやすい事象よりも多いのではないでしょうか。だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティが重要になってくるのです』と著者は述べています。「源氏物語」や「マクベス」「リヤ王」などから読み解くのは私になかなか難しいのですが、半世紀以上生きてきた経験から言わせて貰えば、何とか一生懸命に普通に生きている人生でも、必ずどこかでどうにもならない事態には直面するはずで、だいたい早急に回答を捻り出そうとして結論を急ぎ、失敗した経験を誰しもしていると思います(もちろん自分も含めてです)。宙に浮いた状態でぼんやり眺めて保留しておくにはなかなかの精神力が必要です、見せかけでもいいから答えが欲しいと思ってしまう・・・・・失敗しては反省するの繰り返しです。ただ歳を取ってから徐々にですが、物事を急がず保留して置いておき、しばらくしてから取り出してもう一度考えてみたりすることができる様になってきた気がします。答えのない事態に耐える力・・・・もしかすると失敗を経験することによって養われるのかもしれない・・・耐え抜く能力というとしんどそうな印象ですが、失敗を回避できる能力と考えたら、楽に考えることもできるかもしれません。

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