ストーリーが世界を滅ぼす

2022年11月11日 08:11

「ストーリーが世界を滅ぼす」ジョナサン・ゴッドシャル著を読みました。著者はワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員。著書にニューヨークタイムズ紙エディター選に入った「The Storytelling Animal」(未邦訳)、ボストン・グローブ紙のベストブック・オブ・ザ・イヤーに選出された「人はなぜ格闘に魅せられるのかー大学教師がリングに上がって考える」がある。「ストーリーが世界を滅ぼす」の原題は「THE  STORY PARADOX」であり、やややりすぎなんじゃないかなあと思われる刺激的な邦題がついています。ちなみに「The Storytelling Animal」は今回の本とは全く逆で、物語がいかに私たちを良い方向になびかせるかをテーマにしている本です。

内容を表紙裏の紹介から引用すると、〔ストーリーテリング・アニマル(物語を語る動物)である私たち人間の文明にとって、ストーリー(物語)は必要不可欠な道具であり、数え切れない書物がストーリーの長所を賛美する。ところが、ストーリーテリングにはもはや無視できない悪しき側面がある。主人公と主人公に対立する存在、善と悪という対立を描きがちなストーリー。短絡な合理的思考を促しがちなストーリー。社会が成功するか失敗するかは、そうした悪しき側面をどう扱うかにかかっている。虚偽情報を流すキャンペーン、トライバリズム、陰謀論、フェイクニュースなど、SNSのような新しいテクノロジーがストーリーを拡散させ、事実と作り話を区別することがほとんど不可能になった。人間にとって大切な財産であるストーリーが最大の脅威でもあるのはなぜなのか、一体何ができるのかを、説得力を持って明らかにする。〕といった感じです。

私が気になった箇所は、『第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ』から、歴史上の悪者と加害者に対して、私たちは共感をもって想像することができない。奴隷商人、異端審問官、アメリカ大陸征服者、虐殺者に対しては、神の恩寵がなければ自分がああなっていてもおかしくはなかったということを私たちは認めようとしないだろう。悪魔は「他者」ではない。悪魔は私たちだ。彼は同じ環境に生まれていれば私がーあなたがーなっていたかもしれない人物なのだ。
もう1箇所『終章 私たちを分断する物語の中で生き抜く』から、私たちは皆ストーリーテラーであり、だから信用してはいけないー誰よりも私たち自身が。(中略)他人の語る物語だけでなく自分が語る物語についても、道徳主義的に単純化されてはいないかと疑う心を育てなければならない。

自らを客観的に見ることはいかに難しいかを改めて考えさせられました。

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