「大脱走」アンガス・ディートン博士著を読みました。博士はプリンストン大学の経済学部教授。専門分野は健康と豊かさ、経済成長の研究。1945年イギリス生まれ。米英の市民権を持ち、ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭をとったのち、プリンストン大学に移籍。2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。現在の研究テーマは、富裕国と貧困国における健康状態の決定因子と、インドをはじめとする全世界の貧困の計測。(著者略歴より)2015年「消費・貧困・福祉」に関する分析に対してノーベル経済学賞を受賞されています。
この本の内容は、「序章・本書で語ること」の一番初めに(ほぼ論文のサマリーのような)要約が書いてありわかりやすいので抜粋したいと思います。今、世界は最高に暮らしやすい・。豊かな人々の数が増え、極端に貧しい人々の数は減っている。寿命は長くなったし、親が子供の四人に一人を喪うのがあたりまえという時代は終わった。それでもいまだに何百万人もが、貧困と早すぎる死の恐怖を経験している。この世は、ずいぶんと不公平だ。格差はしばしば、発展の副産物として生まれる。誰もが同時に金持ちになれるわけでもないし、清潔な水であれワクチンであれ心臓病を予防する新薬であれ、最新の救命手段を誰もがすぐに手に入れられるわけでもない。そして格差は、ひるがえって発展に影響を及ぼす。これには良い面もあって、インドの子供たちが教育の力を知って、学校に通うようになるということもあるかもしれない。だが、勝ち組が後に続くものを邪魔しようとはしごを引き上げてしまったらどうなるだろう。新興成金の連中が金に物を言わせて政治家に圧力をかけ、自分たちには無用な公的教育や公的医療サービスを制限しようとするかもしれない。本書は、物事がどんなふうに良くなったか、発展がなぜ、どうやって起こったか、そして発展と格差がその後どのように相互作用するようになったかについて語っている。(以上序章から抜粋)
この本の中でも衝撃的だったのは、第7章「取り残された者をどうやって助けるか」に書かれている点です。貧困国に対する援助は、私たち(援助を行う富裕国)が彼らのニーズや要求をちゃんと理解しておらず、彼らの社会の仕組みもしっかり学ばず、そのため私たちなりにできることをしようという不器用な努力が結局、薬より毒になってしまっているということだ。・・・つまりノーベル経済学賞を受賞されたA・ディートン博士は富裕国が行っている援助は、貧しい人々が自力で立ち上がれる道の邪魔になっていると主張しているところです。そういえば国際援助が行われた結果、その前と後でどのような変化があり、どのような効果が生まれたのか、成功したのか失敗だったのか、といった検証作業はなかなか伝わってこない気がします。現在の援助ではない形での世界の貧困を削減する戦略については、本を読んでもらいたいのですが、この問題はもっと関心を持たなければならないと感じました。