「デマの影響力」という本を読みました。著者のシナン・アラル博士は科学者、起業家、投資家。MITの経営学、マーケティング、IT、データサイエンスのデヴィッド・オースチン教授、MIT社会分析研究所所長です。ソーシャル・メディアやニューヨーク・タイムズなどと緊密に連携して研究活動を続けているほか、現在ではイギリスの国立のデータサイエンス研究機関であるアラン・チューリング研究所やノルウェーのレスポンシブル・メディア・テクノロジー&イノベーション・センター、ブラジルのデジタル銀行の先駆けとなったC6バンクなどの諮問委員を務めています。邦題は「デマの影響力」となっていますが原題は「THE HYPE MACHINE
How Social Media Disrupts Our Elections, Our Economy, and Our Health-and How We Must Adapt」となっていて“デマ“について主に書いているというよりも、ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理を解き明かして、いかに私たちの投票先や、購入する物、さらに恋愛の相手まで影響を与えようとしているかを描き出している本と言ったほうが、より内容が伝わりやすいと思います。ちなみにHYPE MACHINEとは、著者によるとデジタル・ソーシャル・ネットワーク、人工知能、スマートフォンの3つからなるソーシャル・メディア産業複合体のことを指します。もちろんデマやフェイクニュースが真実よりも速く、広く、力強く伝わってしまう影響についても触れられていますが、ソーシャル・メディアの良い点と悪い点をなぜそういうことが起こるのかを、詳細な調査を基に根本的なところから解説している点は、とても読みやすくお勧めしたい1冊です。
第11章の一部を抜粋すると『ハイプ・マシンは大きな価値を生み出す力を持っているということだ。だが、そのことをつい忘れがちになる。すでに見てきたとおり、ハイプ・マシンには負の側面も多いためだ。だが、本当は世界を良くする方向に変えるとてつもない大きな力を持っていることも思い出すべきだろう。・・・・〈中略〉・・・・ハイプ・マシンの持つ素晴らしい力と、負の側面とは表裏一体だ。だからこそソーシャル・メディアは扱いが難しい。注意深く利用しなければ、良い面はすぐ悪い面に変わり得る。悪い面が勝つようであれば、価値は大きく下がることになるだろう。』とあります。
さらに第12章ではソーシャル・メディアを正しい方向に導くには試行錯誤が必要になる。いくつもの方法を試し、検証するのだ。理論に基づいて方法を選び、本当に理論どおりなのかを実地に確かめる。ソーシャル・メディア企業、政治家、消費者の三者が協力し合うことが重要であり、確かなデータを大量に集め、専門家が分析することも必要だろう。適切な目標の設定、実地の検証、そして少しの決断力があれば、きっと私たちは良い方向に進み始めるだろう。
すでに年配者の部類に属していて、ソーシャル・メディアに影響される以前に、使いこなすことがで出来ていないので、まだ距離がある話のように感じますが、耐性がないのでむしろそういう人間の方が危険なのかもしれません。ソーシャル・メディアの功と罪について考えてみたいと思います。