脳の地図を書き換える

2022年09月16日 08:21

「脳の地図を書き換えるー神経科学の冒険ー」デイヴィッド・イーグルマン博士著を読みました(原題はLivewired:The Inside Story of the Ever-Changing Brain)。翻訳の方(梶山あゆみ訳)の力でもあると思うのですが、とてもわかりやすく読みやすい本です(邦題もわかりやすく上手くつけてるなあと思います)。アメリカの心理学者ウイリアム・ジェームスが生み出した「可塑性(Plasticity)」という用語を使わず、形を自由に変えることからさらにイメージを発展させて、絶えず自らを改造する(変化し続ける)意味でライブワイヤードという用語を新しく作り出して脳の潜在能力を明らかにしてくれます。

デイヴィッド・イーグルマン博士はスタンフォード大学で「脳の可塑性」講座を教える神経科学者で、エミー賞にノミネートされたテレビシリーズ「The Brain」の生みの親で同番組のプレゼンターを務めたほか、非侵襲的なブレイン・マシン・インターフェースを開発するネオセンソリー社のCEOでもあります。「あなたの知らない脳ー意識は傍観者である」は世界的なベストセラーになっています。

内容は脳神経科学について専門的なことも書いてありますが、最初に書いたように、私のようなただの脳科学好きでも、非常にわかりやすく楽しく読むことができました。最先端の研究からイーグルマン博士は、脳はハードウエアとソフトウエアで動くものとせずに、絶えず配線を繋ぎ直している汎用的パターン認識器として捉え直しています。例えば聴覚や視覚、または身体の一部を失った時に脳内ではどのようなことが起きるか?ある感覚で別の感覚を「代行」させることは可能か?など驚くべき事例をあげて解説してくれます。

また何歳であっても学習はできるのですが(もちろん脳の可塑性は若ければ高い)、脳が歳をとるとなぜそのペースが遅くなるのか?。それは脳が変化する原動力は内部モデルと現実との差異にあるため、物事が予想通りであれば脳は変わらない、つまり歳をとると脳は未知の新しい刺激を受けることが減り、所定の位置に落ち着きやすくなってしまう。もちろんそれは悪いことばかりではなく、物事を適切に判断できるようになっていることの裏返しです。ここの話は個人的には結構注目していて、不測の事態に柔軟に対応するために、新しい刺激を常に脳構造に反映されるようにうまくバランスをとることも必要で、自分の固定化された考え方と現実との「差異」に気づくことが“物事を『予測』をする上で“重要になってくるのではないかと考えています。まだ解明されていない部分も多く、今後、神経修飾物質の働きや自由意志の問題と併せて研究が進んでいくのを待ちたいと思います。

博士は、私たちはひとりひとりが1個の器となって時間と空間を湛えている。私たちは世界の1地点に生まれ落ち、その場所のこまごまとした情報を吸い上げる。いってみれば、自分が世界の中で生きている時間を記録する装置なのである。あなたという人間はこれまで相互作用してきたすべての中から立ち現れてくる・・といっています。・・・・まるで大昔ブッダが言った言葉のようです・・おすすめの1冊ですのでぜひ読んでみてください。

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