やっと読むことができました。図書館で予約してから半年以上待ち・・・この作品は大人気の様です。「クララとお日さま」です。ご存知の通り、2017年にノーベル文学賞を受賞しているサー・カズオ・イシグロによって執筆された小説です。
カズオ・イシグロさんは長崎県長崎市出身ですが、幼年期に渡英しており、イギリスの小説家です(国籍はイギリス)。ノーベル賞受賞後のインタビューで「予期せぬニュースで驚いています。日本語を話す両親のもとで育ったので、両親の目を通して世界を見つめていました。私の一部は日本人なのです。私がこれまで書いてきたテーマがささやかでも、この不確かな時代に少しでも役に立てればいいなと思います」と答えているそうですが、あまり日本の小説に影響を受けたものはなく、むしろ小津安二郎や成瀬巳喜男などの1950年代の日本映画により強く影響されていると語っています。
内容を簡単に説明すると、人工知能を搭載したロボットのクララ(AF人工親友)は、病弱な少女ジョジーと出会い、その友人となるために買われて行く。ひたすら良い友人になるため人間を理解し、学ぼうと努力するクララとジョジーはやがて友情を育んでゆくが・・・・。生きているということは?、愛とは?友情とは?家族とは?・・・・本当の知性について・・利他・利己について・・信仰について・・・・人間を動かしている何かについて考えさせられます。
ロボットであるクララはジョジーの良い友人となるため、人間の感情をただ理解(原文だとunderstandなのでしょうか、comprehendなのでしょうか?)しようとして、そこには自身の感情や利己的なものは感じられません。しかしクララが学んで行くにつれて、次第に変わって行くように感じられます(まさに子供が成長して行くように)。お手伝いさんと目的を共有したり、お日さまに願い事をするときには、迷ったり、ためらったり。クーティングッズ・マシンを壊そうとするときには、興奮したり、恐れを感じたりします。人工知能に感情はあるのかと言う問題は別として、人工知能という特殊な語り手を通じて、世の中を描くことによって、人間の何か大切なものが浮き彫りになってくるように感じます。図書館で借りようとすると、いまだに待ち時間が長くなるほど人気ですが、ぜひ読んでもらいたいおすすめの1冊です。
ちなみに黒澤明監督の「生きる」1952年がイギリスで「Living」としてリメイクされるそうです。脚本はカズオ・イシグロさんが手がけるとのことなのでこちらも期待です。