「【呉公藻・馬岳梁版】太極拳講義」著者の沈剛さんは1963年中国上海生まれ、幼少より呉式太極拳を学び、1989年に来日。2013年「呉式太極拳研究会」を立ち上げ一般への教授を始められました。呉式太極拳嫡伝第五代伝人です。
内容は本の帯に“全方位に奥深いまっとうな太極拳入門書”とありますが、太極拳がどういった歴史を経て、どういった理論をもとに組み立てられているかを、わかりやすい日本語に翻訳して、系統だてて解説してくれています。ちなみに初めて知りましたが中国には伝統太極拳(いわゆるこの本で解説している歴史ある太極拳)と制定太極拳(健康増進を目的として、中国国家体育委員会によって第二次世界大戦以降に編纂・規定された太極拳)の2種類あるそうです。よく中国の公園で、多くの人が太極拳をしている映像が流れていますが、あれは制定太極拳という健康増進の太極拳のようです。
太極原理について本の中で触れているのですが「太極は、宇宙が誕生した当初の状態であります。形も音もなく、音も気配もないですが、今日の全ての出来事と物事は全て太極から発展して来ました。」とあります。太極拳論の原文では「太極者、無極而生。動静之機、陰陽之母也。動之則分、静之即合」つまり、太極は動と静に過ぎず、陰陽は太極に過ぎないとされています。これって東洋医学の(伝統中医学といっても良いと思います)天下合一理論や陰陽の二元論とかなり近い発想で、根底では通じているものがあると思います。伝統中医学では、患者さんの状態を把握して治療に役立てるための理論になるので、施術者が患者さんの証を立てるためにあるので、分類して当てはめていく道具にしてしまいがちなのですが、太極拳論では当然武術の一つなので、相手との間合いや、刻一刻と変化する状況に合わせてゆく、体のコントロールに注力している印象がありました。
「編沉則随、双重則滞」重心が生きている立ち方であれば相手に従うことができ、死んでいる重心は体全体が滞る。などは“なるほどなあ”と考えさせられました。鍼灸師もこうした理論は、頭の中で考えているだけでなく、自らの体のコントロールに生かしてこそ、施術の向上にもつ繋がるのだと気付かされました。