「鳴かずのカッコウ」手嶋龍一著を読みました。著者の手嶋龍一さんは作家・外交ジャーナリストであり。1974年にNHKに入局、、ワシントン支局長をつとめ2005年に退局後、「ウルトラ・ダラー」2006年(読みました)「スギハラ・ダラー」2010年などがベストセラーになっています。今回の「鳴かずのカッコウ」は11年ぶりの新作小説だそうです。
ヒトなし、カネなし、武器もなしの最小で最弱の情報機関である公安調査庁に入庁してしまったマンガオタク青年の梶壮太は、初対面の相手に堂々と身分を名乗れず、所属する組織名を記した名刺も切れない。こうした戸惑いの日々のある日、ふと目にした看板から中国・北朝鮮・ウクライナの組織が入り乱れた国際諜報戦線に足を踏み入れることとなる。諜報後進国に現れた突然変異のインテリジェント・オフィサーは大金星を上げるのか?否か?・・・・・・。外国のMI6やCIAといったインテリジェント機関を題材にした小説は軍隊が動いたり、撃ち合いがあったり、最新の兵器や最新の情報技術が詰まっていたりしますが、この小説には一切そういったものは出てきません。しかし情報を集め、分析し役立つものとするのは、つまり情報機関の仕事とは、地味な作業の繰り返しや人脈を通じた丁寧な情報収集が大切なんだろうなあと感じました。がしかしその中でも特殊な「カンの良さ」みたいなものが重要であることは言えると思います。
小説といっても登場する公安調査庁は実在する法務省の外局で、内閣官房調査室、警視庁警備局、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部とともに、内閣情報会議、合同情報会議を構成する日本の情報機関の一つです。Wikipediaで調べたところでは、同庁の設置には特別高等警察、領事館警察、陸軍中野学校、旧日本軍特務機関、憲兵隊出身者が参画したとされ、やや暗い影のようなものを感じますが、ヒトなし・カネなし・武器もなしで国際諜報の最前線でインテリジェンス活動を行なっていることを考えると、大変なんだろうなあと感じます。
かなり綿密に取材された上で書かれていると思いますので、小説とはいえ読んでいるうちにフィクションなのかノンフィクションなのか、区別ができなくなるようなスレスレの感じが面白いのではないでしょうか。おすすめの一冊です。