「彼岸花」は小津安二郎監督1958年松竹製作の、小津作品としては初のカラー映画です。以前ブログに書きました、ニューヨークタイムズに勤めていた専属の映画評論家ヴィンセント・キャンビーが絶賛したという映画です。クレジットに原作里見弴(小説家)と記されていますが、映画化されることを前提に新作を書き下ろすことになった結果、里見、小津、野田高梧(脚本)の3人が構想した大まかな筋のもと、小説、シナリオ別々に作られたものだそうです。ちなみに里見弴さんは「彼岸花」の製作プロデューサー山内静夫さんの父にあたります。鎌倉生まれの山内さんは晩年、鎌倉文学館館長や鎌倉芸術文化振興財団理事長などをされていましたが、本年2021年8月に96歳でお亡くなりになっています。
映画の内容は簡単に言って仕舞えば、結婚にまつわる父と娘の物語といったところでしょうか。小津監督の真骨頂と言いますか、ある家族のお茶の間を中心として、細やかに日常を描き出し、父親は父親の世界、娘には娘の世界としたそれぞれの立場や考え方を、丁寧に浮き彫りにして行きます。小津監督の代表作のひとつと言えると思いますが、ベスト1はと言われれば「東京物語」には及ばないかなあと感じました。幸子役の山本富士子さんは初代「ミス日本」だけあって綺麗でしたねえ・・・。大阪出身だけあって大阪弁が板に付いているなあと思ってのですが、設定は京都の旅館の娘でした。神奈川出身の私には大阪弁と京都弁の区別がつきませんでした申し訳ありません。
映画を観終わってからしばらく考えてみたのですが、小津監督はなぜこの作品のタイトルを「彼岸花」としたのでしょうか?それが謎です。ヒガンバナはヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草です。秋の彼岸の頃に、花茎の先に強く反り返った鮮やかな赤い花だけを咲かせ、秋の終わりに葉が伸びて翌年の初夏に枯れるという、多年草としては珍しい性質を持っており、地下の鱗茎(球根)に強い毒性を有する有毒植物でもあります。ヒガンバナという名前は、彼岸の頃、突然に花茎を伸ばして鮮やかな紅色の花が開花することに由来する説と、毒性があるためこれを食べた後は「彼岸(死)」しかない、という説もあるそうです。
日本に繁殖しているヒガンバナは三倍体なので種子を作れないため、人の手が一切入らないところでは、突然育つことがない植物なのだそうです。この辺りがタイトルになった理由なのかもしれません。間違いなく小津安二郎監督の代表作といえると思いますので、是非観てもらいたい映画です。