江戸の風評被害

2021年10月08日 08:48

「江戸の風評被害」と言う本を読みました。著者の鈴木浩三博士は経済史家で、その他にも江戸の経済にまつわる「江戸の経済政策と現代 江戸がわかれば今がみえる」「江戸のお金の物語」など多くを執筆されています。この本では、江戸時代の人々を翻弄した個々の風評被害の具体例をあげて、実態とその背景を読み解き、群集心理から江戸の社会システムに迫っています。その中には虚説や、故意に脚色された風説や単なる噂話なども含まれ、こうした風評は、人々の行動を左右し、政治経済も動かしたとされています。1813年(文化十年)「蕎麦を食べると当たって死ぬ」という風評が広がり蕎麦屋の休業が続出し、幕府が取り締まりに乗り出しています。また1786年(天明6年)には「上水に毒物が混入された」と言う浮説(噂)が出回り、江戸中が大混乱に陥り、幕府が緊急に取り締まりに乗り出すこととなっています。この浮説には天命飢饉の最中であったり、田沼意次の時代から松平定信が老中首座に就任する政権交代の時期という背景があり、政治的な関連性も疑われています。その他にも貨幣改鋳に関する浮説に至っては、江戸中期を中心に4〜5年に一度の割合で起こっていて、その都度幕府は取り締まりに追われています。1695年の貨幣改鋳で小判の品質を低下させており、1700年代当初銀貨不足により質を落とした銀貨の改鋳・発行が次々と行われるといった背景があったようです。やはり健康にまつわる安全性に関わるものや、経済活動にまつわる利害関係が関わっているもの、天災のまつわる風評被害は、時代を超えて現代にも通じるところがあり、人と人とのコミュニケーションあるところにに発生するようです。この本を読んでみて、SNSの時代となった現代も同じような風評被害に悩まされている状況は変わっていないなあと感じています。そう考えると大切に思えたポイントが2点あり、我々が税金を払っている公的機関の信用が損なわれることは、非常に問題がある。もう一つは江戸時代には風評被害の取り締まりには町奉行ー町年寄りー名主といった町内の統治機構をフル活動した人海戦術で当たっていた(口コミで人から人へ伝わった噂には、人から人への人海戦術で取り締まった)。歴史に学び現代に置き換えて考えれば、風評被害に対するにはどうすれば良いか・・・考えさせられました。

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