志ん生一代

2021年08月06日 08:46

「志ん生一代」結城昌治著を読みました。この小説は名人・文楽と並び称された不世出の天才落語家、5代目古今亭志ん生の破天荒人生を描いたものです。もともと取材を元に伝記を書くつもりだったものが、無名時代が長く考証できなかったため、諦めた経緯があるそうです。型破りというか破天荒というか・・・・この小説に登場する落語家・古今亭志ん生(美濃部孝蔵)の人生は今の世間一般常識からすれば無茶苦茶です。15歳で家出、10代から「飲む・打つ・買う」を覚えてやめられず、家賃は踏み倒し、借金も踏み倒し、高座をすっぽかし、師匠の羽織まで質屋に入れて飲み代にしてしまう。作者の結城昌治さんはハードボイルド小説の先駆者と呼ばれているそうですが、志ん生の人生そのものがハードボイルドなのではないかと感じます。当時の芸人さんに対する世間一般の価値観はだいぶ今と違っていたと思いますが、想像以上にすごいです。それでも何か憎めないというか、名人というものはこういうものなんだろうなと納得してしまうところがあります。落語に対する情熱と言いますか・・・、ただひたすらお客さんに自分の落語を聴いてもらいたい、満員のお客さんの前で自分の体得した「芸」を出し切ってみたい、そのためには師匠や仲間、他人のアドバイスさえ素直に聞き入れ、努力は一切妥協しない、こうした信念みたいなものは絶対にブレないところが名人と呼ばれる人の凄さなのではないかと思います(ただ周りにいる人にしてみれば大変さも凄かったと思いますが)。残念ながら志ん生の落語は、もちろん寄席で見たことはないし、映像で見たこともありません、録音のテープもしくは最近ではポッドキャストで聴いています。今ではYouTubeでも聴けますので、この小説もおすすめですが、志ん生の落語「火焔太鼓」や「唐茄子屋」「らくだ」などもおすすめです。

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