「樹木たちの知られざる生活」は全世界で100万部を超えるベストセラーとなった、ドイツの森林管理官が書いた森についての本です。著者のペーター・ヴォールレーベンさんは20年以上ラインラント=プファルツ州営林署で働いたのち、フリーランスで森林の管理をはじめた方です。動物のようには動かず、声を出さない樹木ですが、子供を教育し、コミュニケーションを交わし、時に助け合うような驚くべき能力と社会性を持っている。音に反応し、数をかぞえ、長い時間をかけて移動さえするといった、ドイツの森林での具体例を示しながら、経験と科学的事実をもとに分かり易く解説してくれます。1章ごと興味深いエピソードの読み切りのような形になっているので、気軽に読めますのでおすすめです。またペーター・ヴォールレーベンさんは樹木の習性を尊重したやり方で営林を行なっている傍ら、原生林の保護も行なっており(アーヘン工科大学の研究にも携わっている)「森は、たまたま無数の生き物に生活空間を提供しているだけの木材工場でも資源庫でもない。事実はその逆だ、。適切な条件で育つことができて初めて、森林の樹木は安全と安心という木材の供給以上の役割を果たしてくれる。」と語っています。日本でも森林保護のための研究は行なわれてきており、海の生態系に河川の上流域にある森林が大きな役割を果たしていることを明らかにした、四日市大学特任教授(北海道大学名誉教授)松永勝彦教授の研究(宮城県での試験で、実際の牡蠣養殖生産や漁獲量の生産性が上昇した)などはこの本の中でも取り上げられています。こうした考え方のもと、ドイツでは原生林を再生するため、国内にある営林地の少なくとも5%には、今後一切手を加えないと言う点で各政党の意見が一致しているといいます。“何もしないこと”の森林保護活動とのことですが、バランスの取れた安定した森林環境が出来上がるためには500年くらいかかるそうです。日本には「屋久島」「白神山地」「知床」「立山町美女平」などの原生林があります、「函南原生林」などは江戸時代から水源を守る目的で禁伐林として守られてきた歴史があるようです。森林を守って行くためにはとてつもない長期的な視点が必要なのだと考えさせられました。