メカノバイオロジー

2020年08月29日 08:47

メカノバイオロジーなるものをご存知でしょうか?2015年から日本医療研究開発機構(AMED)が研究開発目標「革新的医療機器及び医療技術の創出につながるメカノバイオロジー機構の解明」を掲げている新しい研究分野です。簡単に言ってしまえば「生体における力の役割と仕組みの解明」であり、循環器、運動器、がん、再生・発生に生体内の力はどう関わるのかを研究することだそうです。

歴史的に見れば1984年にMS(mechanosensitive)チャンネルが発見され、その後膜張力によって制御されている事が明らかになり、ごく普通の細胞にも機械感覚(細胞力覚)を持つチャンネルの存在が示された。また2006年には間葉系幹細胞の分化軸が培養基質の硬さに依存することが発見される。これは細胞の分化に硬さという物理量が深く関わることであり、細胞は外部からの機械刺激だけでなく、接触する微小環境の機械的性質を能動的に感知する(能動力覚)ことが明らかになってきた。こうしたことから現在急速に進展してきている注目の分野です。

例えば「メカニカルストレスに依存した腱・靱帯組織の恒常性維持機構の研究」では、運動負荷が腱・靱帯細胞にどのような影響を及ぼし、その結果、腱・靱帯組織の構造がどのように変化するのか、を解明することによって適切な運動負荷を明らかにしていく研究です。

また「浸潤・転移におけるがん細胞力学」ではがん関連死の主な原因である転移は腫瘍と周囲の微小環境との物理的相互作用に加えて、がん細胞自体の機械的性質が、細胞運動・浸潤、ひいては転移の根底にある重要な決定要因として注目をし、これらの機械的特徴ををターゲットとした浸潤・転移治療法の可能性についての研究です。

さらに「間葉系幹細胞の分化制御培養力学場の設計」では間葉系幹細胞の培養中の分化偏向を避けるため、幹細胞のメカノバイオロジーを操作する培養基材の設計を元にした培養技術の確立についての研究です。

こうした研究から、機械刺激(応力)/力覚は化学刺激/化学受容と並んで生命を支える普遍的な仕組みであるとの認識が広がっており、メカニカルストレスは人類の命や健康を奪うさまざまな疾病に深く関与していると見られている。鍼灸師としても機械刺激に対する生体反応は注目すべき分野なのでこれからも絶えず最新の情報をチェックしていきたいと思います。

参考文献 実験科学増刊 vol.38-No.7 2020

記事一覧を見る

powered by crayon(クレヨン)