グリア細胞 Ⅱ

2020年07月09日 17:42

前回「グリア細胞 Ⅰ」で書きました通りニューロン以外の脳細胞であるグリア細胞が、最新の研究では他の細胞とも活発にコミュニケーションを取っていることから、脳と心の機能はニューロンのみが担っていると考えるニューロン・ドグマが揺らいできています。

日本でもグリア細胞についての研究は進んでいるようで、九州大学大学院薬学研究院ライフイノベーション分野の津田誠博士は神経障害性疼痛におけるミクログリアとアストロサイトの役割についてを発表しています。その論文では末梢神経の損傷後に脊髄後角ミクログリアは活性化状態となりP2X4受容体が発現増加する。脊髄後角介在神経から放出されたATPがP2X4受容体を刺激してミクログリアから放出された物質によって、抑制性神経伝達物質GABAの作用が興奮性へと転換して脊髄後角神経の異常興奮が起こる。また大脳皮質の一次体性感覚野では、神経損傷後、アストロサイトでGタンパク質共役型グルタミン酸受容体を介した細胞内Ca2+濃度上昇が起き、そのシグナルで大脳皮質での痛覚と触覚の情報処理異常を起こすことなどが報告されています。

現在ミクログリアが誘発する脊髄痛には、二通りの対処法が考えられています。第一はミクログリアの受容体を遮断する方法、第二はニューロンを過剰興奮させる物質のミクログリアによる放出を阻害する方法です。こうした新たな薬物を用いたアプローチは、麻薬を使用する従来の疼痛緩和法に基づいていないので期待が高まっています。とはいえミクログリアとアストロサイトは多くの重要な機能を担っていることからグリア細胞の反応を完全に排除してしまうと、望ましくない結果を招いてしまう可能性も高いので、今後のメカニズムの詳細を明らかにする研究に期待したいと思います。

慢性疼痛に関することで最後にもう一つ、ミクログリアとアストロサイトはモルヒネやエンドルフィンに対するオピエート受容体を持っていることが発見されており、モルヒネの鎮痛効果を先程のP2X4受容体のメカニズムが打ち消すために、痛覚ニューロンの興奮性を増強する物質を放出しているとの報告があります。これの発見によって慢性疼痛患者やがん疼痛の患者によるモルヒネ耐性を軽減する道が開けるかもしれないそうです。

こうした研究はまだまだ発見されていない世界が広がっていて、R・ダグラス・フィールズ博はこう述べています、神経科学者は目下のところ、「もうひとつの脳」を十分に理解していないが、それに関する知識を深めるにつれて、これまでの想像をはるかに超えた広大な脳機能の宇宙を垣間見始めている。

参考文献
「もうひとつの脳細胞」R・ダグラス・フィールズ博士
「実験医学 脳の半分を占める グリア細胞」VolーNo17 2019

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