ヒトの脳は1000億個の神経細胞(以下ニューロン)から構成され、個々のニューロンは他のニューロンからの入力を受け取り、演算結果を他のニューロンに送っている。ニューロン内は電気的インパルスによって伝達され、ニューロン間はシナプスにおける伝達物質によって情報が伝達されている。しかし現在こうした従来の脳の概念、とりわけ脳内のニューロンの役割についての考え方は、最新の研究によって変化してきており、情報はニューロンを迂回して、電気的インパルスを使用しないでやり取りされていることが発見されました。
ニューロンは脳内の全細胞のわずか15%でしかないのですが、残りの脳細胞(グリア細胞)は維持管理細胞と言われニューロン間の間を埋める梱包材に過ぎないと長い間見過ごされてきました。しかしこのグリア細胞は活動電位を発しないために脳内情報処理には関わりがなく、神経細胞より重要度が低いという従来の考え方は覆されつつあります。近年の解析手法の発達により、グリア細胞は様々な伝達物質を放出し、他の細胞とも活発にコミニュケーションをしていることがわかって来ています。
例えばある論文ではアストロサイトというグリア細胞の一種が基底状態のシナプス強度のバランスの増幅をしており、それと同様に学習シグナルを受けた入力と、受けなかった入力とのシナプス強度差異を強調することで、アストロサイトは、学習ルートの安定化に寄与しているのではないかとの報告があります。またある論文ではアストロサイト(グリア細胞の一種)の活動を誘発すると、アストロサイトからグルタミン酸が放出され、神経活動に影響を与え、動物の行動や学習が変化するという報告もあります。
最新の研究ではイオン変動や代謝産物の変動を可視化することで、グリア細胞は神経情報を受け取るだけでなく、神経情報網に介入する存在であることの証拠が明らかになりつつあります。我々鍼灸師にの関係してくる慢性痛とグリア細胞について今後「グリア細胞 Ⅱ」に書きたいと思います。
参考文献
実験医学 増刊 Vol.37-No17 2019
「もうひとつの脳」R・ダグラス・フィールズ