水脈を聴く男

2025年12月24日 10:40

「水脈を聴く男」ザフラーン・アルカースィミー著を読みました。著者のザフラーン・アルカースィミー氏は1974年生まれの小説家・詩人。これまでに4冊の小説と10冊の詩集を刊行している。4作目となる「水脈を聴く男」が、2023年度アラブ小説国際賞を受賞し、一躍注目を集める。

あらすじ
ひどい頭痛に悩まされるマリアムは井戸の深淵からの囁きに導かれ、ついには溺死体として発見される。しかし、その体には胎児が宿っていた。遺児サーレムは耳を澄ませると地中を流れる水の音が聴こえる能力を持ち、周りから不気味がられるが、水源を探し当て村を襲ったばかりの干ばつから救うことで必要とされるようになる。その評判は遠方まで轟き、15歳の少年は「水追い師」として各地引く手あまたとなるのだが・・・。

この本は、アラビア半島に位置し雨のほとんど降らない小国オマーン。地下水路(ファラジュ)による独自の灌漑システムは、峻険な岩山や荒涼とした砂漠の地を潤してきた。アラビア語圏最高の文学賞〈アラブ小説国際賞〉を受賞した、水をめぐる傑作長編です。

舞台になっているオマーンはアラビア語を公用語とする絶対君主制の国であり、古いアラブ文化が残っているイスラム教の国です。アラブ文化とは、イスラム教とアラビア語を基盤とし、多様な地域・民族文化が融合した「融合文明」であり、詩歌・書道・音楽が豊かで、右手で食事をする習慣や、「インシャーアッラー(神の御心ならば)」に代表される時間の感覚、独特の服装(アバーヤ、トーブなど)、そしてモスクなどの建築様式が特徴です。また融合文明とはギリシャ、ペルシア、インド、エジプトなど、古くからの先進文明を取り込み、アラビア語とイスラム教を融合させて発展した文明です。(AIによる回答)

この物語を読むと、砂漠という環境はかなり東アジアの湿潤な環境とは異なっているので、表面的には人々の日常の暮らしはだいぶかけ離れているように見えるのですが、内面的な世界では東洋の思想と近いものを感じました。融合文明とはあまり聞きなれない言葉だったのですが、日本でも神道が元々あったところに先進文明から来た仏教やキリスト教などを柔軟に取り込んでいったところは共通しているのかもしれません。今までなかった矛盾しているものを矛盾のまま共存させる、時間軸の中で時間をかけて溶かし込んでしまう発想は、非常に近い構造のようで興味深いです。ただしCOPILOTに聞くと、日本のように重層化して共存させるよりも、アラブ世界では、波として取り入れ、時間の中で変容させる傾向が強いのだそうです。自然災害の多い日本と、砂漠という過酷な環境、どちらも自然に対する信仰は深く根付いているように思えます。

アラブ文化とは?融合文明とは?あまり日頃考えることのない事を考えさせられる1冊になりました。

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