西洋の敗北 

2025年05月28日 16:09

「西洋の敗北」エマニュエル・ドット著を読みました。著者のエマニュエル・ドット博士は、フランスの歴史人口学者・家族人類学者。人口統計を用いる定量的研究及び家族類系に基づく斬新な分析によって広く知られている。「最後の転落」1976年でソ連崩壊を、「帝国以後」2002年で「米国発の金融危機」を、「文明の接近」2007年で「アラブの春」を、さらには2016年米大統領選挙選でのトランプ勝利、英国EU離脱なども次々に“予言“。「エマニュエル・トッドの思考地図」「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる」「シャルリとは誰か?」「問題は英国ではない、EUなのだ」「老人支配国家 日本の危機」「第三次世界大戦はもう始まっている」などの著書がある。

この本の内容はこんな感じです
ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ(キーウ)政権とともに崩壊する。戦争は“世界のリアル“を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも5年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独政権に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」・・・。「いま何が起きているのか」、この一冊でわかる!(表紙裏の内容紹介より)

これが現実というものなのでしょうか、読んだ後の読後感がちょっと暗い気持ちになります。もちろん著書の内容は客観的なデータに基づいているのですが、社会科学系の分析ではどうしても研究者の視点や解釈による影響は避けられないものだとは思います。もしかしたらトッド博士は悲観論者なのかもしれません。ちょっと気になったところは、西洋の衰退を多角的に分析しているとは思うのですが、西洋がかつての覇権を維持できなくなり衰退してきている、これが西洋中心の枠組みとして語られている側面があると思います。例えばウクライナ戦争ですが、ロシアによる行動は、国連憲章第2条第4項に違反しているとされて、多くの国がロシアの侵略行為だとみなしています。国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)などの国際機関も国際法違反であると指摘しています。ウクライナ戦争を西側諸国とロシアの対立として捉えることが戦争の本質なのでしょうが、実際に効果のないものは触れる意味がないと切り捨てるのもどうかと思います。さらにトッド博士は独立した国家の重要性を強調する傾向が見られていて、多国間協調の必要は認めてはいるものの、多国間経済連携のようなものは否定的に捉えているようにも感じられます(トッド博士の他の著書を読んだことがないので、あくまでもこの本を読んだ個人的な感想です)。東洋の小さな島国の人間からすると、もう少しアジア(東洋の視点も含む)やアフリカ、南米などの視点、もっと広げて考えれば地球全体からの視点も(西洋を外側から)入れて分析してもらえると・・・さらに世界は(西洋だけでなく)どのように再生することができるかをもう少し触れていただけると、もう少し楽観的に・・気が楽になったのではないかと思います。

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