「脱露 シベリア民間人抑留、凍土からの帰還」石村博子著を読みました。著者の石丸博子さんは、北海道室蘭市生まれ。ノンフィクションライター。法政大学卒業後、フリーライターとして各新聞、雑誌で活躍。サハリン残留法人への関心から「NPO法人日本サハリン協会」の会員となり、シベリア民間人抑留者の存在を知る。協会保存の資料を基に調査・取材を積み重ね、約8年の歳月をかけて本書を書き上げる。その他著書に「たったひとりの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く」「ピリカチカッポ(美しい鳥)知里幸恵と『アイヌ神話集』」「孤高の名家朝吹家を生きる 仏文学者・朝吹三吉の肖像」などがある。
この本の内容は、鉄道員、炭鉱夫、大工、運転手・・・。敗戦後の南樺太で彼らは突然逮捕された。彼らや密航者は囚人としてラーゲリに連行され、過酷な労働の刑期が明けてもソ連各地に強制移住させられる。さらに、組織も名簿も持たないため引き上げ事業の対象外となり、生き延びるためにソ連国籍を取得すると、日本政府は数百人に昇シベリア民間人抑留者を「自己意思残留者」として切り捨てた。ソ連崩壊後、抑留と残留、双方の運命を背負わされた彼らは“発見“される。国がなくとも何者でなくとも生き抜いた男たちとその家族の、格闘と尊厳の軌跡・・・8年強の取材で明かされる秘史とも言えるノンフィクション作品です。
中国大陸に残留した中国残留日本人についてはニュースなどで知っていたのですが、南樺太(サハリン島北緯50度以南1905年〜1945年まで日本領有下)でもソ連の強制連行と強制移住によってこのような悲劇が起こっていたことを知りませんでした。著者の石村さんの言葉を借りるならば、「日本は戦争により多くの命を失わせ、戦後処理においては、もっとも弱き人々を“効率的に“消去していった。それでも、個人個人の歴史を紐解くと、人は自分自身と出会った人のために人生を拓いていくひたむきさを備えている。」戦争に翻弄され、故国と家族を思いながら異境の地で生き抜いた人々は、あまりにも悲惨な戦争の現実を伝えています。しかも戦後処理という事務的にも聞こえる戦後は何十年にもわたって続いていく。今現在も戦争はなくならず、戦争が終わってもこうした人々はいまだに生み出され、その人たちの戦後は延々と続いていく・・・・。
『絶望と失意のなかで死者となった人生に意味と希望を与えるのは、死者との思いを温め続ける郷愁と、戦争による分断への抗議を併せ持つ、生者の非戦への祈念と戦いではないかと思うのだ。』
著者がシベリア民間人抑留帰還者の死にあたって思いを綴った文章です。戦争の悲劇は戦場だけで起こっているわけではなく、終戦を迎えてもそこで終わったわけではない、戦争に翻弄されて亡くなっていった方々の思いを忘れてはならない。今を生きている私たちは、今一度、考えてみる必要がありそうです。