「くもをさがす」西加奈子著を読みました。著者の西加奈子さんは、父の海外赴任地イランのテヘランに生まれ、イラン革命が起きた2歳の時に帰国。次いで、小学1年生から4年生までをエジプト・カイロで過ごし、帰国後は大阪府和泉市で育つ。25歳くらいから短編小説を書き始め、作家となるために、自信作を携えて単身上京。知り合いから小学館の編集者を紹介され、2004年「あおい」でデビュー、翌2005年に発表した「さくら」が20万部を超えるベストセラーとなった。作家10周年を記念して上梓した大作「サラバ!」で2015年直木三十五賞を受賞している。(Wikipediaより)
この作品は、西加奈子さん初のノンフィクションです。2021年のコロナ禍の最中、カナダで乳がんを宣告された西さんが、その闘病生活を描いています。西さんが乳がんと診断され、その治療を受けるまでの約8ヶ月間の体験が細やかに描かれており、病気と治療への恐怖や絶望、そして家族や友人への思い、時折訪れる幸福の瞬間などが綴られ、多くの人々にとって日々の幸せや人生の意味について考えさせられる一冊です。ちなみに第75回読売文学賞(随筆・紀行賞)や、書店員が選ぶノンフィクション大賞オールタイムベスト2023などを受賞しています。
星野源さんが、確か、くも膜下出血で入院されていた時の闘病生活を描いていた作品(題名は忘れてしまいました)と同じような読後感がありました。ものを書く仕事をしている人間としてどうしても伝えたいことがある・・・・、心が折れそうな辛い体験、出会った色々な人から受け取った幸せ、辛くシビアな状況でもたまに顔を出すユーモア、それぞれの出来事にメッセージがあり、魂がこもっているように感じます。作品の中でところどころに西さんが読んだ本の一部を引用しているのですが、それについて巻末の「終わりに」でこう言っています。『あらゆる方法で私を救ってくれた芸術の、ほんの一部だ。あなたたちの存在に反射して、私の人生は眩く光り、時に適切に翳り、息をすることそれ自体に、意味を与えてくれた。』
引用していたものの中でこんな詩がありました。
みじめではない
と思いたい。
だのにひとは
みじめさのなかではじめて生きる。
安永稔和「存在のための歌」1955年
この詩が心に刺さり忘れられません。
最後に作品中の西さんのメッセージを載せたいと思います
あなたは時に幸せで、時に不幸だった。あなたは時に健康で、時に健康を害していた。あなたは時に生きることそのものに苦しんでいて、あなたは時になんてことのない日常に無情の喜びを感じていた。あなたに、これを読んで欲しいと思った。