「田沼意次ー汚名を着せられた改革者ー」安藤優一郎著を読みました。著者の安藤優一郎博士は、歴史研究者で日本政治史・経済史専攻、早稲田大学教育学部卒業し同大学院文学研究科博士後期課程満期退学。文学博士(早稲田大学)。JR東日本「大人の休日」倶楽部のナビゲーターとして旅好きの中高年の人気を集め、NHKラジオ深夜便などでも活躍。「賊軍の将・家康」「15の街道からよむ日本史」「30の名城からよむ日本史」「蔦屋重三郎と田沼時代の謎」「お殿様の人事異動」ほか著者多数。(著者紹介より)
この本の内容はこんな感じです、幕府の財政難に立ち向かい、大商人ら民間活力も取り入れバラエティーに富んだ新規事業を積極展開した田沼意次。農本主義から重商主義への転換により税収の増加を図る。しかし、利権を見出した商人が贈る賄賂により舞台裏で政治の腐敗が進行するなか失脚する。賄賂政治家というレッテルによりその評価を曲げられてきた改革者としての実像に迫る歴史ノンフィクション。(帯内容紹介から)
2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦屋栄華乃夢噺〜」では江戸のメディア王と言われた蔦屋重三郎の生涯を描いたもので、当時足軽身分から成り上がり、老中までになった田沼意次も主要人物として登場するそうなので、田沼意次(演:渡辺謙)に関する本を読んでみました。
農民に対する増税路線に限界を覚え幕府改革に着手し、商業重視の政策に方向転換し、株仲間の推奨、俵物、銅座などの専売制の実施、鉱山の開発、蝦夷地の開発、下総国印旛沼の干拓などさまざまな商品生産や流通に広く薄く課税し、金融からも利益を引き出すなどの財政政策は、経済政策としては至極真っ当な手堅いもののような気がしますが、しかし、場当たり的なものも多く、利益よりも弊害が目立つようになり、運上金、冥加金の上納を餌に自らの利益を目論む町人が増え、田沼時代の代名詞である賄賂が横行する。結果、ある特定の人たちが得をして、その他の人々は誰も得をしないようなことになっていく・・・・。田沼時代には明和の大火、三原山・桜島・浅間山の大噴火、天明の大飢饉などの天変地異が多発していて大変な時代だったと思いますが、これほど悪役のイメージが強い人物も珍しい(そういえば鎌倉殿の13人で主役の北条義時も悪役のイメージが強い人物でした)。田沼意次失脚後に老中となり、寛政の改革を行なった清廉なイメージの松平定信は綱紀粛正、徹底した財政の緊縮、農村復興、民衆蜂起の再発防止に勤めましたが、倹約令や風俗統制令を頻発したために江戸が不景気となり、市民から強い反発を受けることとなりました。経済政策では田沼時代のものをそのまま継続したものも多いそうです。
松平定信老中就任当初に流行った落首
『田や沼やよごれた御世を改めて 清くぞすめる白河の水』
その後、改革が厳しすぎたためこちらに取って代わられた落首
『白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき』
政治って難しいですね・・・・。改革の中身がよく吟味されていることは当然ですが、時期や順番、程度なども頭に入れておかなければならず、それを行う為政者のキャラクターや伝え方までも影響してくるようです。落とし所とよく言いますが、程度の問題を間違えるととんでもないことになるのは今も昔も変わらないのかもしれません。この辺りは分断に関係している要素ではないかと感じます・・・・・よく考えてみたいと思います。