「日月潭の朱い花」青波杏著を読みました。青波杏さんは近代の遊郭の女性たちによる労働問題を専門とする女性史研究者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。2013年「(解放)と(労働)の境界で:1920−1930年代の新聞記事にみる遊郭のなかの女性たちの抵抗と日常」にて博士(人間・環境学)の学位取得。2022年、「楊花の歌」で第35回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。今回の小説の舞台となる台湾の対岸、中国の福建省廈門にて日本語教師をされていたこともあるそうです。(巻末著者紹介より)
内容はこんな感じです、25歳のサチコは、不条理な派遣労働から逃れるように亜熱帯の台湾に渡り、偶然再会した在日コリアンのジュリと、台北の迪化街で暮らしていた。誕生日の晩、サチコが古物商の皮のトランクのなかに日本統治時代の台湾を生きた女学生の日記をみつけたことから、ふたりの生活は一変する。普段は引きこもっていたジュリだったが、その日記を書いた女学生の行方調査に夢中になり、やがて大きな謎につきあたった。それは、70年以上前、深山に囲まれた日月潭という湖で起こった、ある少女の失踪事件だった。(本帯の内容紹介より)
ちなみに日月潭とは台湾南投県魚池郷に位置する台湾で最も大きな湖。北側が太陽(日)の形、南側が月の形をしていることからこう呼ばれるそうです。人気の観光地となっていて、日月潭から見る夕陽は特に美しいといわれ、また「双潭秋月(日月潭で見る秋の月)」は台湾八景の一つに数えられている。湖を一周する日月潭環湖マラソンは今年は10月20日に開催されます(体力とお金と時間があれば、いつか出場してみたいです)。
古いトランクの中から日記が見つかる、それは日本統治時代1941年に日本人女学生が書いたものだった。始まりから引き込まれます。主人公は普通の日本語教師の女性ですが、ミッションインポッシブルのようなスリルとサスペンスさらにアクションもありの過去と現代が交差する壮大なエンターテインメントとなっています。著者は女性史研究者だけあって女性の登場人物が多く、特に女性の登場人物の生い立ちなどを含めてアイデンティティが細かく描写されているように感じます。できれば映画化を期待したい作品。秋の夜長におすすめの一冊です。