「リハビリの夜」熊谷晋一郎著を読みました。著者の熊谷晋一郎さんは、1977年生まれ。小児科医。新生児仮死の後遺症で、脳性麻痺に。以降、車いす生活となる。幼児向けから中学生くらいまでの間、毎日リハビリに明け暮れる。小中学校と普通学校で統合教育を経験。大学在学中は地域での一人暮らしを経験。また全国障害学生支援センターのスタッフとして、他の障害をもった学生たちとともに、高等教育支援活動をする。東京大学医学部卒業後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学小児心臓科での勤務を経て、現在、東京大学先端科学技術研究センター准教授。他の障害を持つ仲間との当事者研究を目論んでいる。(著者紹介より)
この本は、著者が従来の「健常な動き」を目指すリハビリを諦め、他者やモノとの身体接触を通じて「官能的」に自ら運動を立ち上げる方法を模索し、自身のリハビリテーションの経験を通じて得た洞察や、脳性麻痺の当事者としての視点を描いています。本の中では、リハビリキャンプでの過酷な体験や、初めて電動車椅子に乗った時の感覚などが詳細に語られています。第9回新潮ドキュメント大賞を受賞しており、リハビリテーションの概念について考えさせられる内容となっています。(COPILOT作成内容紹介)
医療従事者の端くれとして、この本はとても興味深く読ませてもらいました。
なるほどなあと思ったところはいくつかありまして、たとえば「私と同じタイプの脳性麻痺身体の特徴に、「折りたたみナイフ現象」と呼ばれるものがある。たとえば私がストレッチをされている時に、施術者が私の体のある関節を強い力でぐいっと伸ばすとしよう。筋肉にはもともと、無理やり引き伸ばされるとその引き伸ばし速度に比例した力で、引き伸ばされまいと抵抗する「伸張反射」というものが備わっている。私に場合、この反射に関しても例に漏れず強くなっているから、施術者は強い抵抗を感じることになる。ところが、施術者が力を入れ続けながらしばらくそのまま粘っていると、徐々にその抵抗力は弱まっていき、じわじわと関節が伸び始める。そして、ある程度まで伸びると、まるで嘘のように抵抗が消え、すとんと伸び終えるのである。これを「折りたたみナイフ現象」という。この現象は、私にとって抱擁にも似た気持ちよさがある。自分ではどうすることもできない緊張を他者の大きな力によってほどかれるときの、安心感のようなものを伴っている。」(本文抜粋)
これってわかるような気がします、よく首とか肩とか背中とか腰とか膝とかパキッと音がすると緊張が解けて気持ちのいいことってありますよね、他人にマッサージとかストレッチとかをしてもらっている時だけでなく、自分で凝ってるなあと思うと鳴らしにいくことがあります。私の場合は首と背中は自分から鳴らしにいって、ゆっくりとした比較的軽めの負荷でパキッと鳴ると気持ちよく感じます。
また著者はこうも書いています。「運動における自由というのは、「健常な動き」というものを習得することによって得られるものではない。また、外界から介入されることなく自分の好きなように動けるという状況でもない。それは外界と協応構造を取り結びながら、外界の応答に関する予期を先行させつつ自分の動きを繰り出せる状態のことである。」
怪我や病気や老い・・・いつ何時、自分のイメージした動きができなくなる日が来るかはわかりません。すべての人はこうした認識を持つべきなのかもしれません。じっくり考えてみたいと思います。