「野火」大岡昇平著1952年創元社版を読みました。著者の大岡昇平さんは小説家、評論家、フランス文学の翻訳家・研究者です。フィリピンのミンドロ島での俘虜経験をもとにした『俘虜記』(1048年)で作家の地位を確立。『武蔵野夫人』(1950年)などの秀作も書くが、その目は一貫して戦争に向けられていた。戦記文学『レイテ戦記』『野火』が代表作である。ちなみに軍隊での経歴は、1944年3月教育招集で、東部第二部隊に入営。7月にフィリピンのマニラに到着。第百五師団大薮大隊、比島派遣威一○六七二部隊に所属し、ミンドロ島警備のため、暗号手としてサンホセに赴く。1945年1月、マラリアで昏睡状態に陥っていた著者は米軍の捕虜となり、レイテ島タクロバンの俘虜病院に収容される。(レイテ島の戦いとは、1944年10月20日から終戦まで行われた、日本軍とアメリカ軍の陸上戦闘である。台湾沖航空戦での戦果誤認から、作戦を急遽変更し、2ヶ月間の戦闘でレイテ島の日本軍は敗北し、戦死者79261名を出す結果となる〈アメリカ軍の戦死者は3504名〉)。(Wikipediaより)
この作品は、1951年に「展望」に発表。翌年に創元社から刊行された。第3回読売文学賞・小説賞を受賞。フィリピンの山中で病気のため軍隊からも病院からも追放された兵士が主人公。人肉喰いという倫理問題を提出して、戦争と生存と人間性の関係を追求した戦争文学の代表作の一つ。1959年に市川崑監督が映画化しています。日常の視点をもとに戦争を描写することが特徴であった「俘虜記」に対し、その手法では表現できなかった描写として、熱帯の自然をさまよう孤独な兵士と感情の混乱を表現するため、「野火」はファンタスティックな物語として構想された。著者自身の体験をもとにした「俘虜記」に対し、本作は純然たるフィクションだそうです。(Wikipediaより)
終戦記念日前後に毎年1冊戦争にまつわる本を読むことにしているのですが、今年の1冊は「野火」です。Wikipediaにはファンタスティックな物語として(fantastic は空想的もしくは幻想的の意味で使われていると思うのですが)構想された、と記されていますが、内容の細かな描写は戦争のリアルさが伝わってきます。内容についてはあえてここでは書きませんが、ぜひ読んでみてください。
戦争体験者の大岡昇平さんがあえて、小説(フィクション)という形で伝えたかった思いとは何だろうか。究極の現実と夢の中を行ったり来たりするような作品にしたのがなぜか。どのように戦争を自分の中で消化したのだろうか。考えさせられる作品です。
「戦争を知らない人間は、半分は子供である」大岡昇平さんはこう書いています。戦争を知らない私は、大人になる方法を考え続けなければならないのかもしれません。