資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか

2024年07月03日 16:17

「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」ナンシー・フレイザー著を読みました。著者のナンシー・フレイザー博士はニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの政治・社会科学教授。専門は、批判理論、ジェンダー論、現代フランス・ドイツ思想。その他の著書には、「正義の秤ーグローバル化する世界で政治空間を再想像すること」「再分配か承認か?ー政治・哲学論争」「99%のためのフェミニズム宣言」などがあります。ここでフレイザー博士の専門である“批判理論“とは何かについて触れたいと思います。

批判理論とは、社会全体を批判し、変化させることを目的とした社会理論です。伝統的な理論が社会を理解または説明することに焦点を当てるのに対して、批判理論は社会生活の表面を掘り下げ、世界がどのように機能するかを人間が完全かつ真に理解することを妨げる仮定を明らかにします。またマルクスの理論をブルジョア資本主義の批判に焦点を当て、経済学や歴史哲学とは異なる視点を持ち、フランクフルト学派によって展開された社会哲学の理論です(COPILOTより)

フレイザー博士は、再分配と認識の正義、二重の抑圧の理論、公共的な領域と対話の観点から批判理論に貢献されているそうです。

この本は、資本主義が私たちの生活や自然といった存立基盤を餌に成長する巨大なシステムであることを批判的に分析し、経済が発展しても私たちが豊かになれないのは、資本主義が問題そのものであるとしています。ちなみに原題は「CANNIBAL CAPITALISM」となっていてこちらの方が本の内容をストレートに表しているような気がします。そもそも資本主義というシステムが人々を幸せにするためにできたのではないだろうと考えると“なぜ幸せにしない“と言われてもピンときません。

資本主義が私たちの生活や自然といった存立基盤を喰い荒らすことで成長する巨大システムである・・・という点は、非常に説得力のある理屈であり“なるほどなあ・・“と納得させられました。がしかし、ではその問題をどうすべきかとなったときに、資本主義を投げ捨てて、「社会主義」の復活に賭けるとなるとどうも説得力に欠ける印象がありました。効率化・効率化・効率化・・・成長・成長・成長と一辺倒で突き進んできたものを見直すことは必要だと思いますが、社会的余剰をめぐる決定を民主化し、集団的な方法で決定し、民主的に配分する・・・・・・これって本当にうまく機能するのでしょうか?考えてみたいと思います。

余談ではありますが、フレイザー博士は「新型コロナウイルス感染症は、資本主義の機能不全が引き起こした正真正銘の乱痴気騒ぎであり、資本主義という社会システムをきれいさっぱり廃止する必要性を、疑問の余地なくあぶり出した」と書いていますが(英語の原文は読んでいないので、邦訳は多少ニュアンスが違うかもしれませんが)、これについては同意しかねます。もう少し検証が必要なのではないかと思います。


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