Nobody’s fool

2024年05月09日 14:29

「全員カモ」ダニエル・シモンズ、クリストファー・チャブリス博士著を読みました。最初に書いてある「Nobody’s Fool」は原題です。ダニエル・シモンズ博士は視覚認知心理学の分野では世界的に有名な研究者で、現在イリノイ大学アーバナ・シャーペン校心理学部教授です。1997年にハーバード大学でクリストファー・チャブリス博士と共同で、人間の知覚、記憶、認識の限界について先駆的な発見の一つである「見えないゴリラ実験」を行い2004年イグ・ノーベル心理学賞を受賞しています。ちなみにこの実験は、白シャツと黒シャツのチームのバスケットボールをパスするビデオ映像を見せ、白シャツチームのパスする回数を数えるよう被験者に指示します。その映像の途中で突然ゴリラが登場し胸を叩いて去っていくのですが、被験者の42%はゴリラの存在に気づかなかったという実験です。これは一つの物事に注意が必要であればあるほど、視界に入っているはずの他のものに注意を払えなくなるという現象で「非注意性盲目」と呼ばれています。
クリストファー・チャブリス博士も視覚認知と注意に関する研究で世界有数の研究者であり、現在ペンシルベニア州の統合医療機関「ガイジンガー」教授です。上記のダニエル・シモンズ博士と共同で行った「見えないゴリラ実験」は有名です。

「誰でも、たまには何かにだまされる」冒頭この文章から始まるこの本は、有名な詐欺事件や詐欺師をひたすら羅列したり、詐欺を歴史学や経済学、社会学の観点から学術的に考察したりせず、詐欺師や被害者の動機やインセンティブ、感情を深く掘り下げたりもしない。その代わりに、認知心理学の観点から、なぜ人はだまされるのか、私たちのどのような思考や推論のパターンが狙われているのかを詳しく説明しています。真実バイアス、すなわち人間に生得的に備わっている、“十分に確認することなく、現実をそのまま受け入れようとする傾向“が、いかに搾取の対象になっているかを明らかにし、同時にこうした搾取から身を守るためにできる具体的な方法を提案してくれます。

昔っから詐欺に共通しているのは、相手を自分たちの世界に引き込んで信じ込ませやすい状況を作り出し、あとは口八丁手八丁で丸め込むパターンではないでしょうか。AIが登場したり、科学的なデーターらしきもの等、手口は高度に変わってきているものの根本は変わっていない。考えてみれば世の中は信用で成り立っているところがあるので、他人を全く信用しない世界では経済活動は成り立たないでしょう。故に「人は基本的に本当のことを話す」という共通の前提は生得的な仕様で、それを利用した詐欺、さらに詐欺ではないが、心理マーケティングと言われる法律の範囲内で消費者の脳の脆弱性を利用することも含めて無くならない。カモられるのはあまりいい気分はしませんが、この本を読んでおけば事前に騙す側の視点に立つこともできるかもしれない。最終章「結論」で、「たまにだまされる人生を楽しむ」と述べられています。程度の問題になりますが、大きな問題にならない(許容範囲内)のであれば「カモ」となるのも笑い話として余裕を持ちたいものです。

ちなみに「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」ステュアート・リッチー博士著という本があるのですが、こちらでは科学論文における欠陥と瑕疵について書かれていますので理系の方にはこちらもオススメです。

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